千葉県防災探訪②船橋市咲が丘中央自治会 ~防災文化を育み、地域に笑顔と輝きを~

『千葉県防災探訪』では、千葉県内各地の防災活動事例を紹介いたします。
今回は当会会員である内田祐至さん(船橋市咲が丘在住)にお話を伺いました。


船橋市咲が丘中央自治会防災部会は7年前に内田さんを中心に設立されました。
現在の会員数は189世帯です。会員のうち女性が半分以上を占め、様々な資格や特技を持った会員がスキルを活かし支え合うしくみができています。
また、防災部会は会員からの年会費500円と船橋市の補助金(スタンドパイプ設置)により運営されています。
この防災部会ではユニークな取り組みがいくつか行われています。

1.地域内の消火器設置個所とスタンドパイプ消火器用排水栓の場所を周知

地形的に周囲と比べて高く、高台の頂上にあたる土地であるため、一旦火災が起きると地域に火が回ってしまう可能性が大いにあります。このため、『絶対に家事を出さない』という考えのもと、地域の住宅地図に消火器設置個所(住民の協力により各班の家の外に設置)とスタンドパイプ消火器用排水栓の位置をプロットし、全世帯に配布・周知しています。

2.小冊子『高齢者の火災対策』配布

地域で暮らす高齢者も多く、仏壇に線香を上げる等の行為から出火する危険も高まっています。このため、高齢者に特化した火災対策意識向上のため、日本防火協会発行の小冊子を配布しています。

3.無事ですタオルの配布と掲出訓練

無事ですタオルは2017年より全世帯に配布されています。タオルと一緒にマニュアルが配布され、誰でも正しい手順で適切な使用ができるように配慮されています。
また、毎月第二土曜日に地域全体で『無事ですタオル掲出訓練』が行われ、その様子はテレビやインターネットメディアで度々取り上げられています。
掲出訓練の年間スケジュールがカレンダーとして配布されているので、掲出を忘れることがないようになっています。
報道された内容は住民全員が閲覧できるよう、カラー版の冊子やDVDにまとめて各家庭に配布されています。この訓練は地域の更なる一体感の醸成に役立っているそうです。

4.各家庭に『命の笛』配布

防災部会会長を務める内田さんは、1995年の阪神・淡路大震災当時、川崎重工に勤務されており、何度も救援に行かれたそうです。その際に大きな衝撃を受けたのは、犠牲者のうち77%(約5,000人)が木造家屋や家具の下敷きになり亡くなったことです。下敷きになりながら即死は免れたものの、助けを呼ぶ声が尽き助からなかった命も少なからずありました。このことから教訓を得て、地域で『命の笛』を購入し、各家庭に配布しています。『命の笛』は米国沿岸警備隊で使われているモデルで、名前が書けるようにプレートもセットでついています。この笛を吹けば800m先まで聴こえるそうです。

5.風害対策マニュアルの配布

2019年の台風15号と台風19号では、咲が丘中央自治会でも風による被害が発生し、同年10月12日に物置転倒被害が発生しました。これを受けて気象庁等の協力のもと、『風害対策マニュアル』を策定し、全家庭に配布しました。マニュアル策定の際は、千葉県に対する呼びかけがホームページのコンテンツの改訂にもつながりました。

このような積極的な取り組みが高く評価され、内田さんは消防庁主催の全国大会に千葉県代表として出席したこともあり、咲が丘中央自治会の活動は広く全国に知られています。また、船橋市の生活学校など様々な講座で講師を務め、命や安全を守る取り組みを精力的に全国へ広めていらっしゃいます。千葉県外でも咲が丘中央自治会に倣い、無事ですタオルをはじめとした活動スタイルを導入された地域が複数あるそうです。

今回お話を伺った際、各家庭向けの配布品と資料を一式頂くことができました。資料には住民に対するきめ細かな配慮が至るところに見られ、マニュアル類は懇切丁寧に作られています。資料末尾には「家族の写真の携帯」呼びかけや、マニュアルの今後の整備プランも記され、住民にとって安心・納得して活用できる資料であることが伺えます。

内田さんのお話しでは、防災部会の立ち上げ以来苦労も多かったが、自分が地域にできる貢献として続けるうちに協力者も増え、防災に強い地域づくりにつながる、着実な成果を感じられているそうです。

防災のニーズは住民の変化と共に、さらに災害が起こるたびに変化しますが、その変化を見逃すことなく対応し、地域防災を進化させ、マンネリ化しない的確な活動が展開されています。

防災文化の醸成を目指し活動を続ける原動力として何よりも重要なのは防災リーダーの熱意-passion-であるという言葉が強く印象に残りました。

※千葉県支部では2022年7月9日(土)の「無事ですタオル掲出訓練」の日に船橋市咲が丘中央自治会の見学会を予定しております。詳細については後日お知らせいたします。

【参考資料】

・SUUMOジャーナル2020年12月22日 (火)
  『第2土曜に船橋でいっせいに掲げられる「無事ですタオル」。コトの経緯を聞きに行った』
船橋市咲が丘中央自治会防災部会組織図
無事ですタオルのマニュアル
無事ですタオルカレンダー
風害対策マニュアル
設備、備品リスト